その4(2009年9月~2010年3月)

「はじめに」で綴るエイズ対策史

その4(TOP-HAT Newsから)

 4回目は2009年9月から2010年3月までの4本(第16~19号)です。ご覧いただけば分かるように隔月発行が定着した時期であり、次の20号(2010年4月)からは毎月発行に移行します。担当者にとってはますます締切りに追われ、自らの首を絞めるかたちになってしまいましたが、目立たないながらもニーズが確実に拡大していることの反映と考えることもできます。第16~19号の見出しを先に紹介しておきましょう。

《アジアの女性5000万人に親密なパートナーからのHIV感染リスク 国連合同エイズ計画(UNAIDS)が推計》(第16号2009年9月)
《新型インフルエンザの流行とエイズ対策》(第17号2009年11月)
《大きな変化が見えてきた》(第18号2010年1月)
《「人権」と「垣根」》(第19号2010年3月)

 第16号では、アジアの女性に関する報告書を紹介しました。
 『報告書は《性行為の相手が夫や長く付き合っている男性に限られているため、HIV感染のリスクは低いと考えられていた女性のかなり多くが、実際にはHIV感染のリスクにさらされている》と指摘し、こうした女性はアジア地域だけで約5000万人にのぼると推計しています』
 かなりアラーミングな指摘ですが、昨年6月の国連総会ハイレベル会合で採択された政治宣言でも、ジェンダーの平等の重要性、女性・女児のエンパワメント(地位向上)の重要性はかなり多くの行数を割いて強調されています。リスクの所在を示すという意味では大げさな推計とは言えません。
 第17号は再び新型インフルエンザの流行を取り上げ、『HIVの感染は話題の流行とは別のメカニズムで拡大していく』ということを改めて指摘しました。
 2010年幕開けの第18号は、米国、中国、韓国などでのHIV陽性者に対する入国規制撤廃の動きを『大きな変化』として紹介しています。
 第19号で前打ち的に紹介した2010年7月の第18回国際エイズ会議(ウィーン)のテーマは「Rights Here, Right Now(いまここでこそ、人権を)」。会議最終日に国際エイズ学会(IAS)の会長に就任するウガンダのエリ・カタビラ博士は同年2月、東京・内幸町の日本記者クラブで記者会見を行い「人権があってこそ予防や治療の介入も始められる」と語っています。
 ただし、治療の進歩に伴い、エイズと人権をめぐる議論もかなり錯綜してきました。同じ年の11月に東京で開かれた第24回日本エイズ学会学術集会・総会のテーマ「垣根を越えよう」はその意味でも秀逸です。

アジアの女性5000万人に親密なパートナーからのHIV感染リスク 国連合同エイズ計画(UNAIDS)が推計(第16号2009年9月)

 世界人口の6割を占めるアジアは国のあり方も言語も人種、文化的な背景も多様であり、このことはエイズの原因となるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の新規感染を防ぐための対策を進めるうえでも大きな課題となっています。国によって異性間の売買春、男性の同性間の性行為、薬物注射など主要な感染経路が異なり、いくつかの感染経路が相乗的に感染のリスクを高めている国もあります。また、各国の経済事情や医療基盤にも大きな差があり、アジアとひとまとめにして対策を語ることは困難だという側面もあるからです。
 そうした多様性や困難性を認識したうえで、なおアジアに共通する課題をさぐっていく努力も続けられています。インドネシアのバリで8月9日から13日まで、5日間にわたって開催された第9回アジア太平洋地域エイズ国際会議(ICAAP2009)では、国連合同エイズ計画(UNAIDS)とその共同スポンサーである国連10機関、市民社会関連団体が協力してまとめた報告書「アジアにおけるHIV感染と親密なパートナー関係」が発表されました。
 この報告書が注目されるのは、HIV感染のリスクの高い行為を続ける男性から、その妻や恋人など長く付き合っている女性へのHIV感染に焦点を当てている点です。アジアではこれまで、女性の多くは性行為の相手が夫や恋人に限られていることからHIV感染のリスクは低いと見なす傾向がありました。
 しかし、報告書は《性行為の相手が夫や長く付き合っている男性に限られているため、HIV感染のリスクは低いと考えられていた女性のかなり多くが、実際にはHIV感染のリスクにさらされている》と指摘し、こうした女性はアジア地域だけで約5000万人にのぼると推計しています。
 これは現在、世界全体のHIV陽性者数の推計値を大きく上回る人数です。人口の多いアジアで感染が拡大していくと、いかに大きな影響があるのかをうかがわせる数字といってもいいでしょう。アジアの多くの国で、女性が夫や恋人からの暴力を拒否することができなかったり、性行為を行うかどうかを交渉する力が弱い状態に置かれていたりしていることが、女性の感染リスクを高める結果を招くことも指摘されています。
 もう少し詳しく報告書の推計を紹介すると、アジアのHIV陽性者の中に占める女性の割合は1990年には17%でした。それが2008年には35%を占めるまでに増えています。そして、現在のアジアの女性のHIV陽性者170万人のうち、約90%が夫もしくは長く付き合っていた男性からHIVに感染したと推定されているそうです。
 報告書は当然、HIV感染の高いリスクにさらされている女性たちへの感染の予防をアジアのエイズ対策の大きな課題として位置づけています。ここで注目しておかなければならないのは、女性の地位や発言力を高めることの重要性を指摘するとともに、そのパートナーである男性に対する予防介入策についても規模拡大の必要性を強調していることです。どちらか一方にのみ偏るのではなく、男女両方を支え、HIV感染の予防やHIVに感染した人たちへの支援に取り組んでいくという対策の大きな基本は踏み外していません。この点は日本の今後のエイズ対策を考えていくうえでも大いに参考になるはずです。報告書(英文)はUNAIDSの公式サイトでpdf版をダウンロードできます。
http://data.unaids.org/pub/Report/2009/intimate_partners_report_en.pdf

 また、報告書の内容を紹介したプレスレリースは日本語訳をエイズ&ソサエティ研究会議のHATプロジェクトに掲載してありますので、参考までにご覧下さい。
http://asajp.at.webry.info/200908/article_3.html

新型インフルエンザの流行とエイズ対策(第17号2009年11月)

 新型インフルエンザの流行の影響で、国内のHIV検査やエイズに関する相談の件数が減っていることが厚生労働省のエイズ動向委員会への報告で話題になっています。9月25日の第118回動向委員会、11月24日の第119回動向委員会とも減少傾向が顕著に表れています。
 第118回委員会で対象となった期間は、今年(2009年)3月30日から6月28日までのほぼ第2四半期に相当する3カ月間ですが、前年同期に比べ、抗体検査件数・相談件数ともに減少しており、まとめの委員長コメントでも次のように指摘していました。

1.感染経路別に見ると、同性間性的接触によるHIV感染が増加傾向であることに変わりはない。
2.地方自治体等の関係者の努力によりHIV抗体検査件数は第1四半期ではこれまでより増加したが、第2四半期では減少した。
3.各自治体においては、利用者の利便性に配慮した検査・相談事業を推進し、予防に関する普及啓発に努めることが重要である。
4.早期発見は、個人においては早期治療、社会においては感染の拡大防止に結びつくので、HIV抗体検査・相談の機会を積極的に利用していただきたい。

 この時期はちょうど、米国とメキシコで新型インフルエンザの発生が報告され、国内でも患者が確認されたことから厚生労働省で対策を急いでいた時期です。このため、検査・相談件数の減少には「保健所が新型インフルエンザ対策に人出をとられ、HIVの検査、相談業務に手が回らなくなった」「世の中に新型インフルエンザに対する流行への不安が広がり、相対的にHIV/エイズに対する関心が低下した」という2つの理由が考えられます。おそらく、その両方でしょう。
 11月24日の動向委員会では第3四半期にほぼ相当する6月29日から9月27日までの3カ月間が対象になりました。この間の検査・相談件数について委員長コメントは次のように指摘しています。

《保健所におけるHIV抗体検査件数(速報値)は26,947 件(前年同時期速報値35,932 件)、自治体が実施する保健所以外の検査件数(速報値)は6,365 件(前年速報値7,800 件)。保健所等における相談件数(速報値)は43,549 件(前年同時期速報値57,792 件)》

 HIV抗体検査の件数は前年同時期のほぼ4分の3。つまり、25%も減っています。また、第3四半期の新規HIV感染者報告数は249件(前回266件、前年同時期294件)、エイズ患者数は96件(前回116件、前年同時期119件)でした。減少傾向がくっきり出ています。新型インフルエンザの流行により、HIV/エイズに関する検査・相談件数が減少し、それが新規のエイズ患者・HIV陽性者の報告数の減少にもつながったと考えるべきでしょう。
 第2四半期では「保健所が新型インフルエンザ対策に人出をとられ、HIVの検査、相談業務に手が回らなくなった」ということが指摘されていましたが、第3四半期では全国の保健所などのHIV抗体検査は通常通り行われているということです。したがって、第3四半期に検査・相談件数がさらに減少した主な理由は「世の中に新型インフルエンザに対する流行への不安が広がり、相対的にHIV/エイズに対する関心が低下した」ということでしょう。新型インフルエンザの国内の流行が本格化したのは10月以降だったことを考えれば、新規のエイズ患者・HIV感染者報告数への新型インフルエンザ流行の影響は現在進行形の第4四半期(10~12月)にはさらに顕著になる可能性もあります。
 人々の関心が取りあえず、いままさに起きている急性期の感染症の流行に向かうのはやむを得ないことでしょう。したがって、重大ではあるが流行の拡大スピードはゆるやかなHIV/エイズに対して当面の関心が低下し、検査や相談を受ける人が減るのもまた、ある程度、やむを得ないのかもしれません。ただし、新型インフルエンザの流行に遠慮して、HIVが感染を控えておくなどということはない。この点はきちんと認識しておく必要があります。
 日本語の「流行」には英語にすると「fashion」と「epidemic」の2つの意味があります。ファッションを「話題の流行」、エピデミックを「感染症の流行」と考えると、2つの流行は、必ずしも同じ時期に同じように広がったり、下火になったりするものではありません。
 新型インフルエンザが流行しているので、それに気を取られ、エイズの流行についてはあまり話題にならなくなった。そんな時期も当然、あります。現にいまがそうなのかもしれません。HIVの感染は話題の流行とは別のメカニズムで拡大していくということは改めて、指摘しておく必要があるでしょう。わが国の新規HIV感染者・エイズ患者の報告数は過去6年、増加を続けてきました。
 しかし、今年夏以降の報告状況を見ていると、2009年の報告数は前年の1557件を下回ることになりそうです。新型インフルエンザの流行の影響という変動要因を考えずに、その数字を受け止めるとどうなるでしょうか。

《6年連続で増加していた新規報告が2009年は減少に転じた》 → 《流行の拡大に歯止めがかかったのではないか》 → 《ああ、よかった》 → 《エイズ対策にはもうそれほど力を入れなくてもいいのではないか》

 このような発想で報告減という見かけの流行の数字に引きずられてエイズ対策が後退するようなことがあれば、後で結局、しまったということになります。先回りするようですが、エイズの流行に対する最近の鮮やかな関心の低下ぶりを考えると、これから発表されるデータはそうしたことを考慮しながら見ていく必要がありそうです。

大きな変化が見えてきた 第18号(2010年1月)

 明けましておめでとうございます。今年もTOP HAT Newsをよろしくお願いします。 2010年は内外ともに大きな混乱の中で幕を開けました。まさに変化の時代です。次に何が来るのか分からない。そんな見通しの立てにくい世の中に身を置けばどうしても不安は募りますが、一方で変化に伴う希望もまた、不安とともに存在しています。HIV/エイズ対策の分野では新年早々、米国と韓国がともにHIV陽性者に対する入国規制を撤廃したというニュースが伝えられました。まさしく希望の持てる変化ですね。国連合同エイズ計画(UNAIDS)と潘基文国連事務総長がそろって歓迎の声明を発表しています。
 エイズ&ソサエティ研究会議のHATプロジェクトのブログに声明の日本語訳を掲載したのでご覧下さい。
http://asajp.at.webry.info/201001/article_3.html

 米国のバラク・オバマ大統領は昨年10月の段階ですでにHIV陽性者に対する入国規制の完全撤廃の方針を表明していました。1月4日にその約束が実行に移されたということです。韓国の方は1月1日に規制を撤廃したことを公表しています。
 米国政府は1987年、HIV感染に対する公衆衛生上の懸念があること、および米国の保健医療サービスの負担が増える可能性があることを理由にHIV陽性の旅行者に対する入国を禁止しました。以来20年以上にわたって、国際的な非難を受け、米国内では国際エイズ会議を開催することすらできなくなっても、HIV陽性者に対する入国規制は存在し続けました。
 そのいわくつきの規制の撤廃は、世界のエイズ政策にも大きな影響を与えることになりそうです。すでに昨年の世界エイズデー前日の11月30日には、ホワイトハウスでヒラリー・クリントン米国務長官や国際エイズ学会(IAS)の次期会長であるエリ・カタビラ博士らが2012年の第19回国際エイズ会議をワシントンDCで開催することを発表しています。米国では1990年の第6回サンフランシスコ会議以来、実に22年ぶりの開催となります。
 一方の韓国は、潘基文事務総長の出身国であり、2011年には釜山で第10回アジア太平洋地域エイズ国際会議が開催されることもあって、エイズ対策にはこのところ非常に熱心です。UNAIDSやIASから「差別的」と強く非難されている入国規制の撤廃はその意味でも急務でした。
 2011年の釜山会議、そして12年のワシントン会議、国際的なエイズ会議の開催は、このところやや壁に突き当たっていた印象もある世界のエイズ政策の展望を大きく切り開く意味を持っています。日本でも1994年に横浜で第10回国際エイズ会議、2005年に神戸で第7回アジア太平洋地域エイズ国際会議が開かれ、たくさんの人がHIV/エイズの流行との長く困難な闘いに取り組むきっかけになりました。
 東京では今年、第24回日本エイズ学会学術集会・総会が11月24日から26日までの3日間、開催されます。こちらも日本のエイズ政策を大きく前に進めることができる力強い会議になるよう岩本愛吉会長(東京大学医科学研究所教授)をはじめたくさんの研究者とエイズ対策の多様な現場を支える人たちが準備を進めています。エイズ対策の困難な現実と学術的な会議との間に生まれるスリリングな関係。それもまた、エイズという感染症のパンデミック(世界的流行)がもたらした新鮮で、注目すべき変化というべきでしょう。TOP HAT News第18号は、そうした変化を的確にとらえるために世界のHIV/エイズの流行の最新推計に関する情報を特集しました。

「人権」と「垣根」 第19号(2010年3月)

 オーストラリアのウィーンで開かれる第18回国際エイズ会議(7月18日~23日)のテーマは「Rights Here, Right Now(いまここでこそ、人権を)」です。会議最終日に国際エイズ学会(IAS)の会長に就任するウガンダのエリ・カタビラ博士が2月に来日し、東京・内幸町の日本記者クラブで「人権があってこそ予防や治療の介入も始められる」と、会議のテーマについて次のように説明しました。
 「特に強調すべきなのはジェンダー間の平等であり、女性の平等と権利、女児の権利、そしてHIV/エイズの流行に影響を受ける人たちの権利を重視したい。MSM(男性と性行為をする男性)、薬物使用者、セックスワーカーといった人たちが自らの安全を確保できるようになることが大切であり、同時に科学的な論拠、エビデンスをもとに対策を進めることも重要です」
 エイズ対策を進める中では、「人権を守る」というメッセージが、異なる立場の人たちから相対立するかたちで示される場面もあります。
 たとえば、HIVに感染した人が早期に抗レトロウイルス治療(ART)を開始することができればその効果は高く、完治は実現できないものの、免疫の力を回復し、長く生きていくことは期待できます。単に長く生きるだけでなく、HIV陽性者の生存の内実、いわゆるQOL(生活の質)も最近5年ほどの治療の進歩で大きく改善されてきたということです。
 したがって、できるだけ多くの人に検査を勧め、早期に治療の機会を提供する必要がある。それがHIVに感染した人に対し、健康的な生活を送る権利を保証することになる。こうした考え方はここ数年、医師らを中心に熱っぽく語られています。非常に説得力のある指摘といえるでしょう。
 しかし、医師と患者の関係、あるいはHIV感染に関する社会の理解のしかたによっては、感染した人の基本的な人権を守るはずの検査の普及が、そうした「善意の意図」とは異なる結果を招くこともないわけではありません。感染を早期に発見することが患者の利益になるということで、本人の意思を無視してまで検査を強制するような手法がとられるとしたら、どうでしょうか。
 会社の定期健康診断で、血糖値やコレステロール値や肝機能を調べる血液検査があるのなら、HIV検査も一緒にやったらいいのではないか。こうしたアイデアが企業関係者から出されることもあります。
 HIV検査は、受ける人の自発的な意志に基づくVCT(自発的相談検査)が原則とされてきました。そのVCT原則からすれば、定期健診の検査項目にHIV検査を組み込むことは、実質的な強制検査につながるおそれがあります。それは容認されていません。しかし、医療機関などからはOpt-Out方式(積極的に検査を拒否する意思を示さない人には全員、検査を実施する方法)による検査の可能性をさぐる動きも出ています。この場合はどうでしょうか。なかなか難しい問題です。
 医学的な検査は、誰のために、そして、何のために行うのか。さまざまな文脈の中で具体的に考える必要がありそうです。治療が進歩し、HIV感染の早期発見と早期の治療開始がHIV陽性者に大きな利益をもたらす時代を迎えているからこそ、そうした議論がますます重要な意味を持つ。そうした認識に基づく「Rights Here, Right Now(いまここでこそ、人権を)」なのでしょうね。
 今年の11月には第24回日本エイズ学会学術集会・総会が東京都港区のグランドプリンスホテル高輪で開かれます。第20回日本エイズ学会から4年ぶりの東京開催ですね。テーマは「垣根を越えよう」です。公式サイトに掲載された挨拶の中で、岩本愛吉会長(東京大学医科学研究所教授)は日本のエイズ対策の現状をこう述べています。
《わが国のエイズ発生動向調査は、厚生労働省に報告された数だけをまとめたものですが、HIV感染者/エイズ患者数は確実に増加を続けています。一方、エイズ対策予算は流行の現実に対応するどころか、逆に縮小を続けるという、理解しがたい現象も起きています。これまでの経験や成果を踏まえつつも、対策の大きな枠組みをもう一度、新たな視点でとらえなおすべき時期にきていると言わざるを得ません》

 日本国内の《理解しがたい現象》は、最近では何もエイズ対策に限った話ではありませんが、厚生労働省のエイズ動向委員会の委員長でもある岩本教授のこの指摘は重要ですね。「垣根を越えよう」というテーマには、2つのメッセージが込められているそうです。ひとつは「基礎」「臨床」「社会」といった研究分野の垣根を越えて新たな対策の枠組みを生み出すこと、そしてもうひとつは「国境を越え、アジア、世界の人たちと情報を共有しよう」ということです。
 人間の世界の対立や分断が、結局はHIVというウイルスに感染拡大の大きな機会を与えてきた。30年に及ぶエイズ対策の経験は、この点を苦い教訓として伝えています。2010年の2つの重要な会議のテーマである「人権」と「垣根」は、そうした教訓を踏まえ、エイズ対策がいま、内外ともに大きな転換期を迎えていることを示すキーワードとしてとらえる必要がありそうです。