エイズの流行 世界の現状

エイズの流行 世界の現状

● 世界の現状と今後の資金需要(UNAIDS推計2015年末現在)
合計 成人 子供(15歳未満)
HIV陽性者数 3670万人 3490万人 180万人
(女性) (1780万人)
年間新規HIV感染者数 210万人 190万人 15万人
エイズ関連の死者 110万人 100万人 11万人
       
治療アクセス 1700万人
低・中所得国エイズ資金 192億ドル (2014年) (57%が国内資金)
必要見込み額 262億ドル
239億ドル
(2020年)
(2030年)
 
2020年より減少

世界の流行(2015年末現在)

『グローバル・エイズ・アップデート2016』から

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)が5月31日に発表した報告書『グローバル・エイズ・アップデート2016』のプレスリリース日本語仮訳を紹介します。2015年末時点の世界のエイズの流行と課題についてコンパクトにまとめられています。英文はこちらでご覧下さい。
http://www.unaids.org/en/resources/presscentre/pressreleaseandstatementarchive/2016/may/20160531_Global-AIDS-Update-2016
 リリースでは、持続可能な開発目標(SDGs)のひとつでもある2030年のエイズ流行終結に向け、抗レトロウイルス治療の普及が進んでいることを強調しています。2015年の1年間で新たに200万人が治療を開始し、世界全体で治療を受けているHIV陽性者の数は1700万人になりました。それでも、世界全体の抗レトロウイルス治療カバー率は2015年末時点で46%(43~50%)ということで、まだ道半ばという印象です。
 一方で、治療の普及が進んでいるにもかかわらず、成人の新規HIV感染件数はここ数年、世界全体でみるとほとんど減っていないことも指摘され、治療の普及や予防対策を支える観点からも、社会的に弱い立場の人たちへの支援の重要性が強調されています。

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 治療を受けているHIV陽性者は2015年の1年間で200万人増加。合計1700万人となった 国連合同エイズ計画(UNAIDS)が発表
 UNAIDSの新たな報告書によると、抗レトロウイルス治療を受けている人は2010年当時の2倍に増えている
  UNAIDSプレスリリース

【ジュネーブ/ナイロビ 2016年5月31日】 2015年末現在の推計で1700万人が延命効果の高い抗レトロウイルス治療を受け、うち200万人は最近12カ月間に新たに治療を開始した人たちだった。この推計値は、UNAIDSの新たな報告書『グローバル・エイズ・アップデート2016』で明らかにされた。6月8日から10日まで、ニューヨークで開かれる『エイズ終結に関する国連総会ハイレベル会合』に向けた報告書だ。
 エイズの流行が最も深刻な国々の多くが2010年以降、抗レトロウイルス治療の普及に異例の努力を傾けた結果、2010年当時150万人(130万~170万人)だったエイズ関連の年間死者数が2015年には110万人(94万人~130万人)に減少している。HIV感染が判明した人には直ちに治療を開始するよう勧告した世界保健機関(WHO)の新たなガイドラインを採用する国が増え、HIV陽性の個人および社会に公衆衛生上の利益がもたらされようとしている。
 「抗レトロウイルス治療の成果が生かされつつあります」とUNAIDSのミシェル・シディベ事務局長は語る。「この貴重な機会を逃さず、HIV予防、治療プログラムを高速対応軌道に乗せ、2030年のエイズ流行終結を目指すことをすべての国に求めたい」
 世界の抗レトロウイルス治療カバー率は2015年末時点で46%(43~50%)に達している。拡大が最も著しいのは深刻な打撃を受けてきた東部および南部アフリカで、2010年に24%(22~25%)だったのが2015年には54%(50~58%)になっている。推計人数は計1030万人である。最も多いのは南アフリカの340万人、次いでケニアが90万人。ボツワナ、エリトリア、ケニア、マラウィ、モザンビーク、ルワンダ、南アフリカ、スワジランド、ウガンダ、タンザニア、ザンビア、ジンバブエの12カ国で、2010年から2015年の間に25%ポイントの拡大となっている。
 報告書はケニアの首都ナイロビで発表された。ケニアは抗レトロウイルス治療の普及と新規感染の減少に最も目覚ましい成果をあげた国の一つである。

HIV予防の強化

 スティグマや差別と闘い、90%以上の人が複合的予防サービスを受けられるようになれば新規HIV感染を大きく減らすことができる。このことはエイズ流行の終結を果たすうえで極めて重要である。
 しかし、UNAIDS報告書は成人の新規感染の減少ペースがここ数年、鈍化していることを警告している。成人新規感染推計値は年間約190万人(170万~220万人)でほぼ横ばいのままだ。世界全体の推計値は、地域によって状況が大きく異なることを覆い隠してしまう。2030年のエイズ流行終結を目指すには、それぞれの地域の状況にきめ細かく対応しなければならない。
 成人の新規感染の減少は東部および南部アフリカで最も大きい。2015年の成人新規感染数は、2010年より4万人少なかった。減少率は4%である。アジア太平洋地域、西部および中部アフリカ地域の減少率はもう少し小さい。中南米・カリブ地域、西欧・中欧地域、北米地域、中東・北アフリカ地域はほぼ横ばい。東欧・中央アジア地域は逆に年間新規感染数が57%も増加している。

取り残された人びと

 UNAIDS報告書は各国に対し、HIV予防対策を引き続き拡大し、同時に治療の普及も進めるよう求めている。予防も治療も受けられずにいる人がまだ、数多くいるからだ。若者、とりわけ若い女性や少女はいまもエイズ対策から取り残されている。15~24歳の若い女性、少女は世界中でHIV感染の高いリスクにさらされている存在だ。人口としては成人全体の11%なのに、2015年には世界の新規HIV感染の20%を占めている。サハラ以南のアフリカでは10代の少女および若い女性が成人の新規HIV感染の25%に達している。有害なジェンダー規範、性別による不平等、教育や性と生殖に関する健康サービスの提供に対する妨害、貧困、食糧事情の悪化、暴力などが、HIVに感染しやすくなる要因なのだ。
 報告書はまた、中央アジア、ヨーロッパ、北アメリカ、中東・北アフリカでは2014年の新規HIV感染の90%以上がキーポピュレーションとその性パートナーの感染であることも報告している。ゲイ男性および男性とセックスをする男性、セックスワーカー、注射薬物使用者といった人たちだ。サハラ以南のアフリカでは、新規HIV感染の20%以上がキーポピュレーションで占められている。HIV陽生率は最も高いのに、いまなお予防と治療のサービスがこの層の人たちに届いていない。
 報告書は各国に対し、市民社会やコミュニティ、HIV陽性者といったパートナーとの緊密な協力のもとで、国内の流行がどこで起きているのかを把握し、適切なサービスが届くようにすることを求めている。
 「人を中心に考えなければエイズの流行に対応することはできません。HIV予防と治療のサービスを届ける妨げになるものは取り除く必要があります」とシディベ事務局長は述べた。「すべての人のためのエイズ流行終結を目指すには、資金をきちんと確保し人びとのニーズに的確に応える必要があります」
 科学とエビデンスと政策によって、持続可能な開発目標(SDGs)の一環である2030年のエイズ流行終結を目指すまたとない機会が訪れている。報告書はそれを概括している。世界がこの共通の目標実現に向けて全力を尽くさなければ、流行は限りなく続いてしまうだろう。

世界の流行(2012年末現在)

 世界のエイズの流行について、国連合同エイズ計画(UNAIDS)は2013年9月23日、新たな報告書を発表し、2012年末現在の世界のHIV陽性者数やエイズによる死者数の推計を明らかにしました。『UNAIDS report on the global AIDS epidemic 2013(世界のエイズの流行2013年版)』と題されたその報告書の推計は以下のようになっています。

世界のHIV陽性者数 3530万人(3220万~3880万人)
年間新規HIV感染者数 230万人(190万~270万人)
エイズ関連の年間死者数 160万人(140万~190万人)

 年間の新規HIV感染者数は2001年当時と比べると33%の減少となっています。コンドーム使用の普及などこれまでの様々なHIV予防対策の積み重ね、および治療の普及がもたらす予防効果が、相乗的に新規感染の減少を促す要因になったのではないかと考えられています。とりわけ、母子感染対策の普及による子供の感染の減少は顕著で、2012年の子供の新規感染数は26万件と2001年当時より52%も減っています。

 一方、途上国のHIV陽性者に抗レトロウイルス治療を提供するための努力の蓄積が実を結んだ結果、エイズで死亡する人もピークだった2005年より30%減と大きく減少しています。それでもまだ、1年間に推計で160万もの人がエイズ関連の原因で死亡しているということは、対策が道半ばであり、今後も治療の普及のための努力に一層、力を入れていかなければならないことを示してもいます。

 もう一つ、注意しておかなければならないのは、年間の新規感染数も、死者数も、ともに減少傾向を示しているのに、世界全体のHIV陽性者数は逆に増加していることです。2012年推計でいえば、死者数よりも新規感染者数の方が70万人分上回っているので、世界全体のHIV陽性者数はその分、増加しました。

 これは治療の普及にも大きくかかわる現象です。今後、治療の普及が進めば進むほど、治療を必要とする人の数は増えていきます。これは現在のHIV/エイズ対策が直面している大きな試練というべきでしょう。「そこそこ成果はあがったし、エイズ対策はもうこの辺でトーンダウンしてもいいんじゃないの」というわけには到底いきません。

 報告書に関するUNAIDSのプレスレリースは最近の治療の普及について、《2012年末までに低・中所得国では970万人が抗レトロ ウイルス治療を受けられるようになった。わずか1年で20%近い増加である》と成果を強調しています。

 2011年6月にニューヨークで開かれた国連総会のエイズに関する特別会合では、2015年までに1500万人のHIV陽性者に抗レトロウイルス治療のアクセスを確保するとの目標を打ち出し、その目標を盛り込んだ政治宣言を全加盟国の賛成で採択しました。

 しかし、各国が治療のカバー率を大きく向上させたことに加え、世界規模の調査結果によって抗レトロウイルス治療が予防にも効果をもたらすとするエビデンス(根拠)が示されたことなどから、世界保健機関(WHO)は今年6月、早期治療の必要性をこれまで以上に強調する新たな治療ガイドライン(手引き)を設定しました。

 その結果、抗レトロウイルス治療を直ちに開始する必要のあるHIV陽性者の数はさらに1000万人以上増えています。治療の普及はこれまで以上に推し進めていく必要があるということですね。「必要な治療を受けられないでいる人が一人もいなくなるというビジョンを実現するまで、私たちは努力を続けていかなければならない」とUNAIDSのミシェル・シデベ事務局長は述べています。

 ただし、リーマンショックがあった2008年以降、途上国のエイズ対策に対する先進諸国からの資金拠出は横ばいか、微減の傾向にあり、報告書は「2012年段階でHIV/エイズ対策に利用可能な世界の資金は年間189億ドルに達しているが、 2015年までの毎年の必要額は推定220億~240億ドルなので、年間で30億~50億ドル不足していることになる」と指摘しています。21世紀に入ってから10年余りの世界のエイズ対策は目覚ましい成果を上げたとはいうものの前途は依然、厳しい。国際的にも、また、日本の国内の状況においても、HIV/エイズとの闘いには「希望はあるが、楽観はできない」というのが当面の共通認識といえそうです。