その8(2011年4月~2011年7月)

「はじめに」で綴るエイズ対策史

その8(TOP-HAT Newsから)

 東日本大震災の翌月の2011年4月号からエイズ流行30周年の6月5日を経て7月号までの4本です。東日本大震災の被災地の人たちにHIVコミュニティは何ができるか。その差し迫って課題に直面しつつ、一方で持続的なHIV/エイズの流行という長期にわたる危機への対応もおろそかにできない。そんな厳しい時期にもTOP-HAT Newsの発行は続きました。2011年6月にはニューヨークの国連本部で国連エイズ特別総会ハイレベル会合が開かれ、政治宣言が採択されています。このときの約束が、2030年のエイズ流行終結を目指す2016年のハイレベル会合に引き継がれ、現在の世界のエイズ対策の基盤となっている。そんな時期でもありました。

急がず、されど休まず(第32号 2011年4月)

 東日本大震災の被災地は依然、多くの困難に取り巻かれています。復旧復興には気の遠くなるような長い努力が必要でしょう。震災とは性格が異なりますが、HIV/エイズの流行もまた、社会にとっては緩やかに進行する重大な危機であり、長期にわたる持続的な対応が求められています。
 ところが、まさにその「ゆるやかに進行する」という部分が危機を危機としてとらえることを困難にし、差し迫って対応する必要性がなかなか実感できない。あるいは、なぜ持続的な対策が必要なのか、説得力ある説明が難しい。そうした事情が関心の低下を招き、いま必要な対策を遂行することが困難な理由の一つになっています。考えてみればそれは、震災の復旧復興のプロセスが長期化した時にも共通する課題なのかもしれません。
 視点を少し変えてみましょう。長期にわたる危機を認識し、なんとか持続的な対策の努力を続けてきた人々の総体をHIVコミュニティとしてとらえれば、そこには異なる展望も開けてきます。平たく言えば、震災復興の過程で、HIVコミュニティの30年に及ぶ体験や知識の集積を生かせる場面が今後、折に触れて出てくるのではないかということです。
 東日本大震災におけるHIVコミュニティの活動には当面、2つの方向性があります。ひとつは被災地のHIV陽性者、およびHIV感染の高いリスクにさらされている人たちに必要な支援サービスを確保すること、そして、もう一つはHIVコミュニティの経験や知識を被災地のより広範なニーズに対応して活用することです。当然のことながら、被災地にもHIVに感染している人、エイズを発症した人は少なからず存在しています。「少なからず」ではありますが、被災者全体の中では、極めて少数の存在であり、その少数の存在が抱える個別のニーズに対応することは、HIVコミュニティの役割というべきでしょう。
 前号でお伝えしたように、国立国際医療研究センターのエイズ治療・研究開発センター(ACC)は「やむを得ない場合の抗HIV薬内服中断の方法について」という情報をサイトに掲載しました。日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラスは、東日本大震災に関連してHIV陽性者が必要とする情報を公式サイトで特集しています。仙台でコミュニティセンターZELを運営する「やろっこ」は《東北・仙台のゲイコミュニティを中心にHIV/エイズについての正確な情報を届けるために活動しているボランティアチーム》です。その「やろっこ」のサイトにも《被災された方の中で抗HIV薬を処方されている方へ》《東北地方HIV検査情報:震災等の影響について》といったお知らせが掲載されています。こうした情報提供から具体的な診療やケアの確保までなすべきことはまだまだあります。
 一方、HIVコミュニティの経験や知識をより広く活用していくには、次々に確認されるニーズに柔軟に対応する情報収集力、想像力、企画力が必要になります。たとえば、住みなれた町や家を失い、避難生活を送る人たちの心のケアの重要性がすでに指摘されています。震災とHIV/エイズ分野は必ずしも同一に論じきれない面もありますが、喪失や不安への対処といった観点から、人材のネットワークも含め、HIV/エイズ対策の蓄積が生かせる可能性は十分にあるはずです。
 福島第一原子力発電所の事故に伴い、福島県から避難した人たちを排除するかのような対応も各地で報告されました。HIV/エイズ対策の分野では、感染症の流行という危機の中で、恐怖や不安に対し社会がどう反応するのかという点に関する経験知の蓄積もあります。大切なことは、その危機により最も大きな困難に直面している人たちを排除することではなく、支援することである。こうした極めてまっとうな理屈を忘れそうになったときには、失敗も含め、過去の経験が大きな力になります。HIV/エイズ対策を通して形成されてきた医療やカウンセリング、社会的支援、コミュニティの自助努力のためのノウハウとネットワークは、より多様な文脈の中で活用が可能です。
 震災からの復旧復興を優先させるために、不要不急の施策に関しては見直しや先送りの必要性が指摘されています。当然の選択ではありますが、ここでも2つの点に注意する必要があります。ひとつは、誰にとって不要なのかという問題です。たとえば、病気の治療はその病気にかかっていない人には不要ですが、病気にかかっている人には生死にかかわる重大性を有することもしばしばあります。その場合、少数ではあっても病と闘う人が存在していることへの想像力が失われれば、圧倒的多数の病気にかかっていない人にとっては治療を確保する努力は不要ということになってしまいます。それでいいのでしょうか。
 もうひとつは、不急ではあっても、不休でなければならない事象への目配りを忘れてはならないということです。急がず、されど休まず。HIV/エイズの流行に対する社会的関心を維持することが困難な時期にこそ、つまり、いま、この時期にこそ、対策の継続と不休への意志もまた強く持つ必要がありそうです。

危機に負けない想像力を(第33号 2011年5月)

 ニューヨークの国連本部では6月8日から10日まで、国連エイズ特別総会ハイレベル会合が開かれます。国連合同エイズ計画(UNAIDS)の公式サイトによると、この会合は《エイズの流行が世界に広がり始めてから30年、国連エイズ特別総会の開催から10年》の節目に開かれ、加盟国政府代表団や国際機関、HIV/エイズ分野のNGO、HIV陽性者組織の代表ら多様な人たちが参加します。《この10年のHIV/エイズ対策を検証し、将来の方向を示す》ことを目指し、《これまでに行ってきた約束を再確認するとともに、地球規模のエイズ対策の方向性を定め、持続的に対策に取り組むことを約束する新たな宣言》を採択する予定で、水面下ではいままさに、その宣言の草案をめぐる議論が続けられています。
http://www.unaids.org/en/aboutunaids/unitednationsdeclarationsandgoals/2011highlevelmeetingonaids/
 前号でお伝えしたように、国連の潘基文事務総長は「ユニバーサルアクセスへの結束: HIV新規感染ゼロ、差別ゼロ、エイズ関連の死者ゼロに向けて」という報告書を発表し、ハイレベル会合で世界の指導者が検討すべき課題を5つの提言にまとめています。その課題の克服には、HIV陽性者やHIV感染の高いリスクにさらされた集団がHIV/エイズと闘う力を高めることが不可欠なため、エイズ対策に取り組むNGO、NPOなどの市民社会メンバーを政府代表団に加える国も増えています。日本政府代表団にも国内および国際的にHIV/エイズ対策に取り組むNGO、NPOの代表数名が加わる見通しです。
 GIPA(HIV陽性者やHIVに大きな影響を受けている人々の積極的な参加)は1994年のパリ・エイズサミット以来のHIV/エイズ対策の大原則です。政府代表団への参加の動きが新たな宣言の具体的内容にも、しっかりと反映されることを期待したいですね。
 国内では5年に1度のエイズ予防指針の見直し作業も進められています。1999年4月に施行された感染症法のもとで、厚生労働大臣告示として制定されている指針です。「予防」の指針ではありますが、そもそも予防対策は単独で存在しているわけではなく、HIV陽性者やHIV感染のリスクにさらされやすい集団への治療やケア、支援の提供も含めた総合的な対策の中で位置づける必要があります。逆に言えば、予防指針について議論することは、治療やケアや支援を含めた総合的な日本のエイズ政策を議論することでもあります。
 指針の見直しは2005年に続き2回目となります。今回は厚生労働省の厚生科学審議会にエイズ予防指針作業班が設置され、医療、行政、公衆衛生、教育、法律などの専門家やエイズ分野のNGO、HIV陽性者団体の代表らが構成員、専門委員となっています。作業班は1月26日の初会合以来、これまでに6回の会合を開き、各論レベルで過去5年間のエイズ対策の検証などを進めてきました。6月1日からはいよいよ総括討論に入ります。
 これまでの議論の流れを見ると、現行指針そのものはそれなりに目配りの利いた内容になっているという評価がある一方で、その指針のもとで国内のHIV感染の拡大が継続していることに対する反省の意見も聞かれました。とりわけ、指針の中で必要とされている施策を具体的に、誰が、どのようにして進めていくのかという実施体制が不明確なことに対する批判が多くの委員から繰り返しなされています。
 HIV検査の普及と早期の感染把握、それに基づく適切な時期での治療開始といった検査と治療の戦略が予防対策にも大きな効果をもたらすことは、国際的にも、国内でも、しばしば指摘されています。抗レトロウイルス治療の進歩と普及により、HIV陽性者が長く社会生活を続けていくことが対策の前提とされる中で、現行のエイズ拠点病院体制は治療の提供体制として有効に機能しているのかどうか。この点についてもかなり議論があり、総括討論の重要な論点になりそうです。
 6月1~7日はHIV検査普及週間です。また、今年の世界エイズデーに向けた国内のエイズキャンペーマの策定プロセスの一環として、「一緒にテーマを考えよう」と題したフォーラムも6月中に東京と大阪で開かれます。東日本大震災の被災地の復旧、復興はわが国の緊急課題ではありますが、そのためにエイズ対策が止まってしまっていいというわけではありません。むしろ、HIV/エイズの流行のように緩やかに進行する危機に対し、辛抱強く、丹念に対策を積み重ねてきた経験と知識、人材の蓄積は、防災とも共通する危機管理や社会基盤整備の観点からもますます重要性が増しています。
 一方で、これからさらに多様化し、継続的な対応が必要となる震災の被災者への支援に関しても、HIV/エイズ対策の蓄積を生かすことができるはずです。いま目の前に存在する危機に対しては、分野を超えて人材と経験の蓄積を活用する。そうした豊かな発想力がなければ、HIV/エイズとの闘いに対する社会の理解も得られない。このこともまた、いまだからこそ、しっかりと認識しておく必要があります。

エイズ30周年の現実(第34号 2011年6月)

 今年の6月5日はエイズの流行から30年ということで、各国のHIV/エイズ部門や国際機関のトップが6月2、3日あたりに相次いで声明を発表しています。5日は日曜日だったので、木曜か金曜に発表を前倒ししたのでしょうね。HATプロジェクトのブログに日本語仮訳をいくつか掲載したのでご覧ください。
 「HIV/エイズ流行30周年にあたって」 トーマス・フリーデン米疾病対策センター(CDC)所長
http://asajp.at.webry.info/201106/article_1.html
 「エイズ流行30年:各国はいま岐路に立っている」国連合同エイズ計画(UNAIDS)
http://asajp.at.webry.info/201106/article_2.html
 「30年を経て:かつてなくHIVの完治療法が求められるのはなぜか」エリ・カタビラ国際エイズ学会(IAS)理事長
http://asajp.at.webry.info/201106/article_3.html

 エイズの流行の起点をいつにするのか。議論が分かれるところかもしれませんが、国際的には一応、1981年6月5日にしておこうじゃないかということになっています。米疾病対策センター(CDC)の死亡疾病週報(MMWR)という定期刊行物に最初の公式症例報告が掲載された日ですね。もちろん、それ以前にエイズの原因となるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)は世界に広がっているからこそ症例の報告も可能だったわけですが、そもそも当時は感染症かどうかも分からなかったし、その病原体のHIVも見つかっていませんでした。
 ただし、少なくとも米国の大都市部では、ゲイコミュニティになんだかよく分からない病気が広がっているぞと医師が気付く程度には流行が広がっていたわけですね。
 蛇足気味に付け加えれば、最初の症例報告といってもその時点ではまだ、AIDSという名前がついていたわけではなく、若い男性にはあまり見かけないタイプの肺炎の症例がカリフォルニア州の若いゲイ男性5人に相次いで確認されたという報告です。AIDS(Acquired Immune Deficiency Syndrome)と呼ばれるようになるのは確か、翌1982年の7月からでした。
 30年の節目に発表された上記3つのプレスレリースを見ると、それぞれの組織の考え方も反映されていて興味深いですね。
 米CDCのトーマス・フリーデン所長は、この30年の予防、治療両面における米国のエイズ対策の成果を強調しつつ、そのことで逆に「あまりにも多くの米国人が感染のリスクを過小評価し、HIVはすでに深刻な健康の脅威ではないと思い込んでいるが、HIVは依然として不治の感染症であることを理解しなければならない」と警告しています。フリーデン所長によるとCDCは「今後10年、HIV感染の予防対策の効果拡大に積極的に取り組むことにしている」ということです。さまざまな方策を組み合わせたコンビネーションアプローチの重要性を強調してはいるものの、文脈からすると、抗レトロウイルス治療の予防効果に期待する医療介入中心の予防が念頭に置かれている印象です。
 UNAIDSは新たに発表した報告書で、2010年末現在の世界のHIV陽性者数3400万人、エイズによる累積の死者数3000万人という最新の推計を明らかにしました。治療の普及が進み、年間の世界のHIV新規感染者数は9年前に比べ25%も減っているなど成果を強調する一方、それでも抗レトロウイルス治療が緊急に必要なのに治療を受けられない途上国のHIV陽性者が900万人もいる現状を憂いています。リーマンショック後の世界経済の停滞で、HIV/エイズ分野に投じられる世界各国の資金も減少傾向を見せており、治療を予防に生かそうといった戦略も、掛け声は勇ましいものの、現状ではそもそも資金面から成り立ちません。新規感染が減少したといっても、いまなお世界では平均すると毎日7000人が新たにHIVに感染している状態です。まだまだ、流行に歯止めがかかったとはいえません。希望が見えてきたといった程度でしょう。その希望を現実に変えるにはお金が必要なんだけどねえ・・・という古くて新しいストーリーがいまなお続いています。
 IASのエリ・カタビラ理事長は米国で最初の公式症例報告があった翌年、ウガンダで最初にエイズ患者の治療にあたった医師であり、「過去30年にわたって、私はHIV陽性者のケアと支援の分野で働き、母国および世界でエイズが広がる過程を見てきた。沈黙と偏見がもたらす壊滅的な状況も、科学的エビデンスに基づく行動が生み出す信じられないほどの成果も目撃してきた」と語っています。
 いわば世界のエイズ対策の生き字引のようなそのカタビラさんがいま、「予防」「治療」「ケア」と並ぶHIV/エイズ対策の4本目の柱として「Cure(完治)」実現のための研究の重要性を強調しています。抗レトロウイルス治療の開発と普及は、HIV陽性者が長く生きていくことを可能にし、最近は予防効果への期待も高まっています。だが、抗レトロウイルス治療の普及は感染拡大のペースには追いついていません。先ほどのUNAIDSの報告によれば、目いっぱい努力して、2001年レベルの22倍の660万人に治療が提供できるところまでこぎつけても、それはまだ、いま緊急に治療が必要な人の3分の1にとどまっています。しかも、新しく1人が抗レトロウイルス治療を始められるようになる間に2人がHIVに新規感染しているといった状態なので、当面は抗レトロウイルス治療の普及でしのぎつつ、完治療法の開発を待つ・・・というか、待つだけでなく開発を急ぐ。これが次の10年に向けたIASの大きな方針のようです。
 ところで、エイズの流行30年は、日本国内ではあまり話題になりませんでした。政治の指導者の皆さんにとって、6月2日、3日あたりはそれどころではなかったのかもしれませんね。どうしてそれどころではなかったのか。後世の歴史家がその理由を知ったら、かなり驚き、あきれてしまうのではないかと思います。ただし、HIV/エイズの流行という危機に同時進行形で直面している私たちは、あきれてばかりもいられませんね。微力ながら情報発信の努力は続けていきましょう。

完治を目指すローマ宣言(第35号 2011年7月)

 HIV/エイズ対策の分野では、国際エイズ会議とHIV基礎研究・治療・予防会議という隔年開催の2つの大会議が交互に開かれています。どちらも国際エイズ学会(IAS)が主催者なので、前者はAIDS会議、後者はIAS会議と呼んで区別されてもいます。
 エイズの流行は、保健医療だけでなく、国際政治、世界経済、ライフスタイル、社会構造、文化芸術などさまざまな分野に影響を与えてきた世界史的現象であることから、AIDS会議には多様な分野の参加者が集まります。1985年に米国のアトランタで第1回会議が開かれた当時は欧米を中心に2000人程度の医学関係者が出席する会議でしたが、最近では世界中から2万人を超える参加者が集まってきます。
 一方のIAS会議は、参加者数でAIDS会議の4分の1程度でしょうか。医学分野の基礎研究者や臨床、公衆衛生などの専門家が中心になり、2001年7月にアルゼンチンのブエノスアイレスで第1回会議が開かれています。
 今年は6回目のIAS会議の年でした。7月17日から20日までイタリアのローマでIAS2011(第6回HIV基礎研究・治療・予防会議)が開催され、会議の公式サイトによると、参加者はメディアやボランティアスタッフも含め、7482人だったということです。
http://blog.ias2011.org/post/2011/07/20/IAS-2011-The-Numbers.aspx

 IAS2011で注目の動きの一つは、「HIVの完治(Cure)に向けたローマ宣言」が発表されたことです。HIV/エイズ治療の進歩はめざましいものではありますが、あくまでHIVというウイルスが感染した人の体内で増えないようにする治療であり、患者は生涯にわたり1日も休まずに複数の抗レトロウイルス薬をのみつづける必要があります。これはなかなか大変なことです。

 《抗レトロウイルス治療の恩恵は反論の余地もないほど大きいとはいえ、感染の状態は続いているので、治療を中止することはできない。生涯にわたる治療継続の必要性は個人にとっても、公衆衛生の面からも大きな負担である》

 ローマ宣言はこう指摘しています。こうした状態を脱し、抗レトロウイルス治療から解放されるようにするのが「完治」だということです。
 国際エイズ学会(IAS)などが発表したプレスレリースは「編集者への注」として、完治には、functional cur(機能的完治)とsterilizing cure(HIVが体内から完全に排除されている状態)があると説明しています。「機能的完治」は「HIVはわずかに体内に残っているものの患者の免疫が完全にウイルスの再増加を抑え込んでいる状態」で、実現の可能性はこちらの方が高いということです。
 ローマ宣言を発表したのは、IASの後援で地球規模科学戦略「HIVのキュア(完治)に向けて」の策定を進めている諮問委員会のメンバーで、HIV発見者としてノーベル医学生理学賞を受賞したフランソワ・バレ-シヌシIAS次期理事長をはじめ世界の主導的エイズ研究者、エイズ対策専門家が名を連ねています。

 治療の普及に力を入れることは現在の世界のエイズ対策の大方針ですが、抗レトロウイルス治療だけでHIV/エイズの流行を克服することは現実には困難です。医学分野の研究者がいま、完治の必要性を強調するのも、そうした認識があるからでしょう。ローマ宣言は次の3点を呼びかけ、賛同署名を求めています。

・安全で利用しやすく大規模に実現可能なHIV完治療法開発が重要なことを認識する。
・HIV完治研究の領域での国際的、学際的研究協力の活性化を約束する。
・エイズ対策関係者や国際的指導者、組織にHIV完治研究推進への貢献を促す。

 地球規模科学戦略「HIVの完治に向けて」の諮問委員会は、今回の宣言を経て、来年7月には、米国の首都ワシントンで開かれる第19回国際エイズ会議(AIDS2012)で新戦略を発表する予定だということです。ローマ宣言、および宣言に関するプレスレリースの日本語仮訳はAIDS & Society研究会議のHATプロジェクトのブログに掲載されています。
 《HIV完治(Cure)に向けたローマ宣言》
http://asajp.at.webry.info/201107/article_8.html
 《HIV完治に向けたプレスレリース》
http://asajp.at.webry.info/201107/article_9.html